毎日新聞掲載記事(2002年10月30日)
■権利を守る4 弁護士会が「民事マニュアル」 泣き寝入りきせない
家業の事伝いでクリーニングの衣類を配送した帰り、女性(20)は通り道にある呉服店からよく声を掛けられた。美しい着物を見せられ、「(支払いは)毎月1000円で済むから」と言われた。その数カ月後、女性が10校の着物を800万円で買うクレジット契約を結んでいたのを家族が気づいた。
女性は自分一人で草履がはけない。知的障害と左半身にまひがある。「長い時間店に缶詰めにされ、しつこく誘われた」。クレジットの意味がよく分からないまま契約し着物は一枚も渡されなかった。相談を受けた弁護士が「詐欺であり、取り消されるべきだ」という内害証明を店と信販会社に送り、契約は無条件で解約された。これは愛知県内であった実例である。
障害や高齢のために判断能力に問題のある人を狙った詐欺商法は多発している。宝石、絵画、寝具、各種の会員権…。各地の消費生活センターにはこうした商品をめぐる詐欺的商法の相談が多数寄せられている。「障害者の特性を熟知した悪質な業者が横行している。被害の大多数が埋もれているはずだ」とある相談員は言う。
名古屋弁護士会は9月、「知的障害者民事弁護実務マニュアル」を作った。「知的障害者からの聞き取りが難しいからと、相談を遠ざけていないか」。同弁護士会の高齢者・障害者問題特別委員会第3部会(鈴木泉部会長)で、そんな声が強まったのは2年前。障害者や家族、施設職員から話を聞き、検討を重ねてきた。
マニュアルは虐待や差別、悪質商法による被害について一問一答形式で紹介。抽象的な質問は避ける▽証言を記録する過程をビデオに撮る▽専門家の鑑定も有効−−など証言を引き出す工夫や裁判対策も具体的に助言している。福祉施設の苦情処理体制や財産管理の方法にも触れている。
「工夫すれば一貫性のある証言は得られる。泣き寝入りしがちな被害者を掘り起こし、弁護士が積極的にかかわる材料に」と同部会の中谷雄二弁護士は言う。【野倉恵】