読売新聞掲載記事(2002年5月5日)
■知的障害者地域で守ろう 安全ネット作り広がる 家族ら警察、駅、商店街に呼びかけ
犯罪に巻き込まれやすい知的障害のある人を身近な地域で守ろうと、親や支援者らが警察や商店会などと協力体制を整える「地域の安全ネット」の活動が各地で始まっている。誤解されがちな知的障害者に対する理解を深め、地域での受け皿を広げていこうという試みだ。
先月上旬、東京・杉並区のJR荻窪駅前の派出所を、近くの養護学校や福祉作業所に通う障害者とその親ら七人が訪れて話し合い、「知的障害者のことで困ったら、我々に連絡を。対応のお手伝いをしたい」と協力を申し出た。
言葉などの発達に問題のある知的障害者は、恐喝や詐欺、レイプなどの犯罪被害に遭ったり、逆に挙動不審者に間違われたりすることがある。コミュニケーションが苦手なため状況をうまく説明できず、泣き寝入りするケースも多い。そんな時に本人の家族だけでなく、近くにいる理解者が手助けすれば、意思の疎通ができるというわけだ。この日参加した江副新さん(49)の長女(13)は重度の自閉症で、二年前に駅前でパニックを起こしたことがある。「お巡りさんが『大丈夫ですか?』と優しく声をかけ続けてくれ、通りかかった近所の方も荷物を運んでくれた。こういう理解者を増やしていきたい」。江副さんらは今後、地元の福祉団体とともに、バス、鉄道などの交通機関や商店会にも足を運ぶことにしている。
こうした活動のきっかけとなったのは、障害者研究に携わる堀江まゆみ・白梅学園短大教授らが昨年から取り組む「安全ネット」の研究。厚生労働省から補助金を受け、社会福祉法人・全日本手をつなぐ育成会(東京)とともに冊子「知的障害のある人を理解するために」を作成した。知的障害についての解説、対応の仕方、困った時の連絡先などが盛り込まれている。
親や福祉関係者と警察との対話は各地で進んできている。大阪と札幌では二月、それぞれ府警、道警本部の代表者をまじえた意見交換会が行われた。警察側も「警察が敷居の高い存在にならないよう、また万が一にも理解不足から対応の食い違いを生じさせないために、理解を深めることは必要」(警察庁地域課)と積極的だ。千葉・松戸市では一月、市内十消防署の副署長らを対象に勉強会も行われた。堀江教授は「理解者が一人いるだけで、状況は違ってくる。少しずつでもネットワークを広げていってほしい」と各地の活動に期待している。